ブット元首相 爆破テロを非難

出典:『ウィキニュース』(ベータ版)
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【2007年10月20日】 毎日新聞・東京新聞・日経新聞によると、10月18日、8年半ぶりにパキスタンに帰国したブット元首相は、パキスタン南部カラチで同日起こった爆破テロ事件について、翌19日、カラチの自宅兼事務所で記者会見し、「真のイスラム教徒なら無実の市民を殺害することは出来ない」「これはわたしへの攻撃ではなく、民主主義に対する攻撃だ。われわれはこの偉大な国を武装勢力に引き渡すことはできない」と非難声明を出し、「民主主義のために犠牲となった命を無駄にしない」と誓った。

地元テレビの集計では死者は139人以上、負傷者は550人以上とされており、地元警察は自爆テロと断定した。パキスタン史上最悪となったこの自爆テロは、亡命中のブット陣営、ムシャラフ政権双方から事件を予告するような警告が繰り返された後、厳重な警戒態勢の真っ只中で起こった。自動車で移動中のブット元首相を狙った自爆テロとされているが、ブット氏や同乗していた野党パキスタン人民党PPP)幹部たちは無傷であった。

ブット氏一行の車列は、19日午後、カラチ市内東部のカラチ国際空港を出発し、帰国後最初の演説会場であるジンナー廟(びょう)に向かって群衆に取り囲まれながら低速度で走行していた。カラチ市内は、アフガニスタンとの国境に近い部族地域の武装勢力からブット氏暗殺が予告されていたため厳重な警備が敷かれていたが、ブット氏の車列がファイサル通りを低速度で走行中に爆発事件は起こった。事件現場では多数の遺体から血や肉が焼けこげる臭いが立ちこめているという。

アジズ首相はじめムシャラフ政権幹部は、ブット元首相の帰国について「帰国は見送ったほうがいい」「過激派による自爆テロは防ぐのが難しい」と今回の事件を予見しているかのような警告を繰り返していた。ムシャラフ政権内には「ブット氏の早期帰国はムシャラフ大統領への圧力を増やし、政治的安定を損なう」との懸念がくすぶっており、テロの脅威を理由にブット元首相の帰国を延期させたい意向があったとされる。

一方、ブット氏は、帰国前の10月17日、「誰も私の帰国を止められない」と語り、10月6日の大統領選挙で再選を果たしたもののその選挙の有効性について最高裁で争っているムシャラフ政権の微妙な時期に、危険を冒してまで帰国するという固い決意を示していた。この強行帰国の背景には、ブット元首相に一刻も早く人心を取り戻したい意向があったとされる。ブット氏は既に、来年1月までに実施される予定のパキスタン総選挙に自身が総裁を務めるパキスタン人民党を率いて出馬する意向であることを表明している。

ブット元首相は、かつては反ムシャラフ政権の旗手として国民の期待を担っていたが、10月6日の大統領選では人民党議員に自党候補に投票させず棄権させていた。自らの権力への復帰を最優先して政敵のはずのムシャラフ大統領に協力してしまうなりふり構わぬ政治姿勢に国民は不満を鬱積(うっせき)させていた。

ブット氏は、「対テロ戦争」の名目で欧米の支持を取り付けているムシャラフ政権に対抗し、自らも「対テロ戦争」の姿勢を取っており、今年7月のムシャラフ政権によるモスク「ラル・マスジッド」武力鎮圧に対してさえ全面支持を表明していた。しかも、その直後、アラブ首長国連邦でムシャラフ大統領と直接会談し、対テロ戦争では一致しておりムシャラフ大統領との協力関係は可能であり、イスラム過激派掃討に全力を挙げるという姿勢を示していた。このため、ムシャラフ大統領、ブット元首相双方とも、イスラム過激派のテロ対象となることを双方の陣営が懸念していた。

この背景には、米国が、ムシャラフ大統領派とブット元首相派を「穏健派」として結集させ、次期総選挙を経て「ムシャラフ大統領 - ブット首相」の両巨頭体制でパキスタン情勢を安定させるとする構想を両陣営に呈示し、両陣営間の交渉を後押ししていたことが挙げられる。しかし、今回の事件で、米構想が逆にパキスタン情勢をより混迷させ、対テロ戦争の遂行をより困難にしかねない事態となった。

今回の事件については、ブット氏に反発するイスラム過激派の犯行とする説がある一方で、イスラム過激派がイスラム過激派弾圧を繰り返しているムシャラフ大統領よりは希望が持ちやすいブット氏をムシャラフ大統領を差し置いていきなりテロ攻撃することはあり得ないとする見方も強い。ブット元首相の夫のザルダリ氏はパキスタン情報機関による犯行説を主張している。ムシャラフ大統領は軍情報機関と良好な関係を保っているとされているため、現在のところ、大統領の指示あるいは軍情報機関の独走の可能性は低いとされているが、この事件を未然に防がなかったことでブット陣営のムシャラフ陣営に対する不信感はいやが上にも増大している。

なお、この爆破テロ事件に対して、アルカイダ自身が既にその関与を示唆している。アルカイダの犯行であれば、混迷の深まったパキスタン情勢は、アフガン情勢・イラク情勢・パレスティナ情勢とさらに密接に連動することになり、米国はさらに頭の痛い問題を抱えることになる。

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