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広島市内でゲリラ豪雨 土砂災害相次ぐ

出典:『ウィキニュース』(ベータ版)
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ウィキペディア広島土砂災害に関する記事があります。
広島市(青色)とその周辺 CC BY-SA 3.0
広島市(青色)とその周辺 CC BY-SA 3.0
安佐北区(青色) CC BY-SA 3.0
安佐北区(青色) CC BY-SA 3.0
安佐南区(青色) CC BY-SA 3.0
安佐南区(青色) CC BY-SA 3.0

【2014年8月20日】

広島県内で8月19日夜から、特に県西部を中心として雷を伴う集中豪雨が発生し、特に広島市安佐(あさ)北区では、8月20日午前3時30分までの1時間雨量が120㎜を記録する猛烈な大雨となった。同県は広島市など4つのと1つの町に対し「土砂災害警戒情報」を発令し、警戒を呼びかけた[1]。またこの大雨で、広島地方気象台は安佐北区付近に「記録的短時間大雨情報」も発令させていた[2]

この猛烈な大雨で、広島市安佐南区八木3丁目では午前4時過ぎから住宅の裏山が広範囲で崩れ、複数の住宅が土砂に巻き込まれた。同市災害警戒本部によると、これまでに同地区の住宅に住んでいる3人と連絡が取れなくなった。そのうち、この家に住んでいる男性1名が自力で避難したほか、消防が捜索した結果、その孫の14歳の女子中学生も救助された。妻については現在も消防が行方を捜している。また3時20分ごろには安佐南区山本で住宅の裏山が崩れ、この家に住んでいる2人の子供の行方が分からなくなったが、消防の捜索で、5時15分ごろに2歳の女児が見つかったが、心肺停止になり、のち死亡が確認された。またもう一人の11歳の男児もその後の捜索で見つかったが、心肺停止状態になっている。更に安佐南区緑井でも77歳の女性が土砂に流され、行方不明となったが死亡が確認された[3]。また、警察によると救助活動中だった広島市消防局の消防署員の男性が死亡したと消防から通報があった[4]

今回の土砂崩れの被害の遭遇に遭った2人が住んでいた民家の隣に住んでいる自営業の男性(35)は「ドン」という音で土砂崩れが始まったことに気付いて、男児の住む民家に「避難しよう」との電話連絡を入れ、男性たちは車で家を抜けだしたが、その後土砂崩れが発生したという。また民家の向かいに住んでいる女性も、この豪雨については「特に午前2-3時ごろがすごかった。稲光が普通じゃなかった。土砂崩れの時は地鳴りがして、地震かと思うくらいだった」と当時について語っている[5]

この他警察によると、43人が行方不明となっているほか39人の死亡が確認されている[6]。また広島市によると、安佐北区可部の根谷川が一時氾濫した影響で、安佐北区・安佐南区の8つの地区に対し一時避難勧告を発令した[7]。同市によると、21日午後4時現在、安佐南区では757人、安佐北区では143人が避難所に避難している[8]

気象庁によると、日本海にある前線に向かい、南から暖かく湿った空気が流れ込んだ影響で、西日本を中心として大気の不安定な状態が続き、九州北部などでは局地的に雨雲が発達しており、午前5時までの1時間に長崎県西海(さいかい)市で93.5㎜、また7時30分までの1時間に佐賀県鳥栖市でも43㎜の激しい雨が観測された。また広島市三入でも午前4時30分までの3時間に降った雨の量が、統計を取り始めて最も多い204㎜を記録し、平年の8月1か月分を上回っている。広島市内での土砂災害のほか、長崎、佐賀、福岡の各県では土砂災害の危険性が高くなっている地域があるほか、佐賀県では川の増水による氾濫の危険性が高い地域もある。気象庁は土砂災害や川の氾濫、浸水被害に厳重な警戒をするように呼びかけている[9]

救助活動

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消防によると、安佐南区緑井地区の住民から「10棟ほどあった建物が無くなっている」と通報があり、現在確認に向かっているが現場に近づけず詳しいことは分かっていない[4]。また安佐北区大林4丁目の住民から「地区が孤立しているのでヘリコプターで救助してほしい」と通報があり現在消防が救助に向かっている[10]。また、広島市内で人命救助が必要な場所は20ヶ所を越えており[11]、200件以上の救助を求める通報が入っている[12]

陸上自衛隊は広島市からの災害派遣要請を受け、約30人を安佐南区八木地区に派遣したほか午前10時過ぎには更に150人が現地に派遣した。その後同隊は更に約300人を現地に派遣、救助活動に当たるとしている。また同隊は日没後も救助活動を継続するとしている[13]

警察庁大阪府兵庫県山口県島根県鳥取県岡山県警察本部の隊員計210人から成る広域緊急援助隊を結成、現地に派遣した[14]

交通・ライフラインにも影響

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今回のゲリラ豪雨災害で、中国電力によると、広島市内の約51900戸で8月19-20日にかけて停電が発生した。内訳は安佐南区約10600戸、安佐北区約30400戸、佐伯(さえき)区約5200戸、中区約3100戸など。これらの原因は落雷などによるものと見られ、高圧変電線1か所が断線、変圧器など6台が破損、電柱も20本ほど倒壊したほか、安佐南区にある太田川発電所も浸水被害を受けている。[15]

また広島市水道局によると、21日午前10時現在安佐南区の390世帯、安佐北区の834世帯、西区の6世帯で断水が続いている。同局は、安佐南区については一部被害が大きい個所を除いて21日中に復旧するとしているが、他の地区では復旧の見通しが立っていない[16]

交通にも影響が出ており、JR西日本旅客鉄道・広島支社によると、可部線芸備線の一部区間で8月20日の始発から列車の運転を見合わせており、特に可部線の緑井-可部の区間と、芸備線の三次(みよし)-広島駅の区間については土砂の流入や線路の冠水により21日いっぱいも運転を終日見合わせる。また国道54号は安佐南区での土石流と安佐北区の道路冠水により通行止めとなったほか、安佐北区を走る国道261号も片側交互通行となった。また三次市を走る県道浜田八重可部線についても大雨被害により通行止めになっている[15]

日本政府の動き

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日本政府は8月20日午前4時20分、前日から続いていた大雨に関する情報連絡室を首相官邸危機管理センターに設置した。

また、安倍晋三首相は関係省庁に「早急に被害を把握し、政府の総力を挙げて応急対策に全力で取り組むこと」「住民の避難支援等に万全を期すこと」「国民に的確な情報提供及び被害の拡大防止を徹底すること」を指示した。20日当時、首相は夏休みで山梨県内でゴルフを行っていたが、切り上げ首相官邸へ向かった[17][18]

政府の調査団(団長:古屋圭司防災相)は、20日午後4時半頃広島市上空からヘリコプターで被害状況を視察、首相に被害状況を報告した[19]。また古屋防災相は21日午前にも安佐南区を訪ね、警察や自衛隊、広島県などから被害状況について報告を受けた他、土砂災害に遭った住宅や冠水した道路などを視察した。視察後、記者団に対して「(同市の避難勧告が遅れたことについて)早めの避難勧告が人命を救うことになるので残念だ」と述べた他、 「土砂災害警戒区域の指定も、地方公共団体によって差がある。政府として、充分に検証して各団体に対応を求めたい」と述べた[20]

民主党海江田万里代表は首相の対応に対し、「20日の朝の時点で、同県から陸上自衛隊に災害派遣要請があるなど、事態が深刻なことが分かっているにもかかわらずゴルフを行ったこと、また夜に再び山梨県内の別荘に帰ったと聞き驚いている。官邸で情報収集に当たるべきだった。」と述べ首相を批判。また「現在、衆議院参議院双方で災害対策特別委員会の開催を求めているが、合わせて予算委員会も開くべき。その場で、首相の姿勢についても問いただしたい」と述べ、国会の場で首相を追求する考えを示した[21]

過去にも土砂災害が

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国土技術政策総合研究所の國友優氏によると、現場付近は花崗岩(かこうがん)が風化し、表面が砂の層になっていて、水が染みこみやすく土砂災害が起こりやすい地域としている。また表層崩壊と呼ばれる固い地盤の上を土砂が一気に崩れ落ちる現象が起こったとみられるとしている[22]

広島市では、1999年(平成11年)6月(15年前)にも、大雨による土砂災害が発生しており、死者31人・行方不明者1人を出している。また広島県によると、県内の多くは花崗岩が風化した地層に覆われていて土砂災害が発生しやすい地質としているほか、国土交通省によると、同県内には全国で最も多い3万2000ヶ所にも上る土砂災害危険箇所があるとしている[23]。また広島市周辺も人口が増加したことで、山を切り開き、その斜面付近に住宅地が開発されたことによって、土砂災害が増加したとされている[24]

今回のゲリラ豪雨はバックビルディング現象が原因か?

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このゲリラ豪雨について、広島地方気象台は、同じ場所で積乱雲が次々と発生して、集中して大雨が発生する、「バックビルディング現象」の可能性が高いとみている[25]

このような現象は、積乱雲がそびえるビルのように直線的に並んでいる様から名付けられ、今回のゲリラ豪雨について、気象庁の気象研究所などは、「太平洋上にある高気圧縁(へり)に沿って、南から暖かく湿った空気が豊後水道を通って、広島市内に大量に流れ込んで、さらに山地にぶつかって上昇することによって、被災地域で南西から北東に向かって積乱雲が直線状に伸びていた」としている[26]

これと同じような現象は2012年7月の北部九州や、2013年8月の秋田・岩手での集中豪雨でも発生したとされている[25]他、今年の7月に台風8号が発生したときの沖縄県での豪雨災害でも起きているとされている[26]

この現象は、気温の高い西日本に行くほど多く発生し、特に太平洋側で発生しやすいが、気象研究所は「全国どこでも発生しうる」としている。また気象庁はこのバックビルディング現象によって大雨の発生が増えているというわけではないものの、1時間当たり50㎜を超える大雨は近年発生する回数が増加傾向にあるとみている。朝日新聞社の取材に答えた気候力学が専門の東京大学中村尚教授は、「地球温暖化が豪雨増加の原因かどうかは判断するのは難しい」としつつ、地球の大気中の水蒸気量が増加しており、それによって大雨被害が増えるとする予測を述べている[26]

広島地方気象台は、「これほどの雨量は想定できなかった。現在の技術でバックビルディング現象が起きる場所や時間を予測するのは困難」と述べている[25]

特別警報発令されず 自治体から見直しを求める声も

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このゲリラ豪雨では、気象庁が最大級の警戒を呼びかける特別警報を発令しなかった。気象庁は「特別警報を発令する発表基準を満たさなかった」としている。この特別警報は昨年8月に運用を開始し、これまで3回にわたって発令されているが、今回は狭いエリアで短時間に降ったものの「府県程度の広がりを持つ被害、かつさらに降り続く恐れがある」とする発令基準に該当していなかったことが原因とされる[27]

こうした基準を、地方自治体から再検討をするように求めている声もある。台風11号により、8月9日に大雨特別警報が発令された三重県では、各市町に対して聞き取り調査を行い、「市町村別とか、ブロック別に発表するなど、もう少し精度の高い情報がほしかった」とする意見が多く寄せられ、同県は気象庁に対して「地域別などきめ細かな発表を行うように」要請していく方針であるとしている。しかし、気象庁は「現在の技術では最大限の対応。基準見直しは、科学的にじっくりと検討を重ねる必要がある」と慎重な姿勢を示している[27]

情報源

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  1. 広島県内で記録的大雨 人的被害相次ぐ(広島県)』 — 日テレNEWS24, 2014年8月20日
  2. 2歳男児ら3人死亡、十数人が不明 県は自衛隊に派遣要請』 — 産経新聞, 2014年8月20日
  3. 広島 住宅に土砂 2歳含む3人死亡 不明者多数』 — 日本放送協会, 2014年8月20日
  4. 4.0 4.1 広島で土砂災害相次ぐ 8人死亡13人不明』 — 日本放送協会, 2014年8月20日
  5. 「避難しよう」直後に土砂が…死者8人、行方不明13人に(1)』 — 産経新聞, 2014年8月20日
  6. 死者39人、不明43人に』 — 日本放送協会, 2014年8月21日
  7. 広2歳児ら4人死亡、11人不明…広島で土砂崩れ』 — 読売新聞, 2014年8月20日
  8. 土砂災害で避難所に900人』 — 日本放送協会, 2014年8月20日
  9. 大気不安定 九州北部と広島 厳重警戒を』 — 日本放送協会, 2014年8月20日
  10. 広島・安佐北区 孤立地区から救助要請』 — 日本放送協会, 2014年8月20日
  11. 人命救助必要な現場 20か所以上か』 — 日本放送協会, 2014年8月20日
  12. 消防に救助求める通報が200件超に』 — 日本放送協会, 2014年8月20日
  13. 陸自 派遣規模500人に増やし救助活動』 — 日本放送協会, 2014年8月20日
  14. 警察庁 広島へ緊急援助隊210人派遣』 — 日本放送協会, 2014年8月20日
  15. 15.0 15.1 土砂崩れ 停電、交通網ズタズタ 広島』 — 産経新聞, 2014年8月21日
  16. 1200世帯余で断水 市が給水活動』 — 日本放送協会, 2014年8月21日
  17. 安倍首相、ゴルフ中断し官邸へ 大雨で情報連絡室を設置』 — 朝日新聞, 2014年8月20日
  18. 首相 被災者の救命・救助に全力指示』 — 日本放送協会, 2014年8月20日
  19. 首相 自衛隊の態勢強化し救命救助へ』 — 日本放送協会, 2014年8月20日
  20. 防災相「避難勧告の遅れ残念」』 — 日本放送協会, 2014年8月21日
  21. 民主海江田代表 首相の豪雨対応を批判』 — 日本放送協会, 2014年8月21日
  22. 現場は土砂災害起こりやすい地域』 — 日本放送協会, 2014年8月20日
  23. 広島 過去にも土砂災害で多数の死者』 — 日本放送協会, 2014年8月20日
  24. もろい地盤、15年前にも被害 風化花崗岩「まさ土」に大量の雨』 — 産経新聞, 2014年8月20日
  25. 25.0 25.1 25.2 茶谷亮他3名 『広島豪雨:バックビルディング現象の可能性』 — 毎日新聞, 2014年8月20日
  26. 26.0 26.1 26.2 福島慎吾、石川智也 『広島豪雨、バックビルディング現象か 積乱雲が次々発生』 — 朝日新聞, 2014年8月20日
  27. 27.0 27.1 発表されなかった特別警報 自治体から見直し求める声』 — 産経新聞, 2014年8月20日