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岩手県大船渡市の山火事鎮圧 避難指示も全面解除

出典:『ウィキニュース』(ベータ版)

【2025年3月10日】

崎浜漁港から写した2025年3月1日夕方18時ごろの山火事の被災状況
大船渡市の位置(濃いピンクで塗られている地域)

2月26日に岩手県大船渡市で発生した大規模な山火事は、同市の面積の約9%に当たる2900ha[1]を焼失し、平成以後の山火事としては日本国内最大級の規模となったが[2]、3月6日以後は新たな延焼が確認されておらず、同市は3月9日にこれ以上の延焼の可能性がなくなったとして「火災の鎮圧」を宣言した[3]

ここでいう「鎮圧」は、火の勢いが消防隊の制御下に入ったことで、火災の拡大の恐れがなくなったと現場の最高指揮者が認めた場合のことを示し、また「鎮火」は指揮者が再燃する恐れがないことを認めた場合のことを指す[1]。その現場の最高責任者に当たる大船渡消防署の署長が3月9日午後1時半ごろに大船渡市の渕上清市長と、同市消防団長らとヘリコプターで上空から状況を確認したところ、これ以上の延焼拡大の危険性がなくなり、火の勢いが消防隊の制御下に入ったものとみなし、鎮圧したものと判断した[1]

今回の火災は大船渡市の綾里地区全域、合足地域、赤崎町の大立・永浜・清水・蛸ノ浦・長崎・外口・宿・後ノ入・森っこ・大洞・生形・山口地域、三陸町越喜来の甫嶺東・甫嶺西・上甫嶺地域の合計1896世帯(4596人)に対して避難指示を出していたが、このうち赤崎町の宿・後ノ入・森っこ・大洞・生形・山口の957人に対しては3月7日、三陸町の甫嶺東・甫嶺西・上甫嶺の333人に対しては同8日、赤崎町の大立・永浜・清水・蛸ノ浦の882人は同9日にそれを解除し、残った三陸町綾里全域・赤崎町の合足・長崎・外口の2424人は継続して避難指示を出していたが、これらも同10日午前10時までに解除され、最初の避難指示の発令から13日目にして避難指示は全面解除された[2]

特に綾里地区は最もひどく163棟が損傷を受け、中にはこの火災で建物が崩落したり、骨組みだけになってしまった建物も散見されている。大船渡市の調べでは3月9日までに102棟の住宅を含む、210棟の建物が被害を受けたことが確認されている[4]。また90代のお年寄りの男性1人の死亡も確認されている[2]

産経新聞の取材に応じた三陸町綾里の港地区に住む会社員の男性(50)は、家族5人で住んでいた家の全焼被害を受け、「ニュースの空からの映像で諦めてはいたんですけど、ショック大きいですね。ここは高台だから、津波のときは大丈夫だったんですけど、山火事なんて想像もしていないです。飼っていた猫が3匹いたんですけど、火事で周りが騒がしくなっちゃって逃げちゃって、まだ見つかってないんです。無事ならいいんですけど」[5]

同じく、釜石市内の会社員の男性(39)も、2024年まで母親(72)と一緒に住んでいた自宅の被害を見て「山火事なんて予想だにしていなかったです。住んでいた時の面影とか残っているかなと思ってたんですけど、何も残っていませんね。大変な災害です」と絶句していた[5]

またNHKの取材に答えた三陸町綾里の小路地区の女性(83)は、2011年の東日本大震災大津波による浸水で家が流出し、小路地区の現在の家に母親と4人の兄弟とともに暮らしていたが、今回の山火事で全焼被害を受けた。「父親が戦死したため、母がひとりで私たちきょうだい5人を苦労しながら育てました。焼けてしまった実家は縫い物や畑仕事をしていた優しい母の姿を思い出せる場所でした。何か残っていないかと探してみたのですが、何もありませんでした。津波も大変でしたが、火災もおそろしいものだと知ることになりました」とこの女性はインタビューに答えている[3]

同じく三陸町綾里では震災による大津波の浸水被害で全壊した自宅跡地にワカメの加工場を建てた男性(40)も火災被害を受けた。自宅は無事だったがワカメの加工場に使っていた倉庫3棟が全焼、漁に使用する道具も損傷して使えない状態になっていた。この男性の倉庫は、自宅跡地に倉庫を建ててワカメの脱水作業や箱詰めに使っており、3月9日から今シーズンのワカメの収穫作業を行う予定になっていた。男性は「加工場の倉庫が再建できないとワカメが出荷できない。再建するにもいくらかかるかわからない。『諦め』という言葉しかない」と述べ、その上で「このタイミングでまた何かが壊れてしまうとは思わなかった。できるかぎりのことを、ここまでやってきた。まさか選んだみたいにこの場所が火事になるとは思っていなかった。せっかくそろえたものが1つの山火事でなくなって悔しい」と胸中を述べている[3]

渕上市長は、今回の避難解除を受けて「待ち望んできた日がいよいよ来た。昼夜を問わず消火活動に取り組んでいただいた消防隊の皆さま、大変ありがとうございました」と謝意し、「家を失った方もいて、暮らしを守る上で生活の拠点となる住まいの確保が急がれる。また、地域の企業、産業を守ることも重要だ。被災された事業者の調査を進め、これから支援を具体化していく」とした[3]

情報源

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  1. 1.0 1.1 1.2 朝日新聞デジタル・松尾葉奈 『大船渡の山林火災、鎮圧発表 発生12日目 建物210棟の被災判明』 — 朝日新聞, 2025年3月9日 17時03分(2025年3月9日 19時33分更新)
  2. 2.0 2.1 2.2 FNNプライムオンライン 『【速報】大船渡の山火事による避難指示を全て解除 発生から13日目 きのう鎮圧発表 岩手県大船渡市が発表 』 — 岩手めんこいテレビ, 2025年3月10日 10時00分
  3. 3.0 3.1 3.2 3.3 NHK NEWS Web 『【速報中】大船渡 山林火災 避難指示解除 被害受けた住民は』 — 日本放送協会, 2025年3月10日 16時15分
  4. FNNプライムオンライン 『焼けた住宅、骨組みだけに…大船渡の山火事 甚大な被害明らかに 避難指示全て解除も自宅を失った住民は多数  』 — 岩手めんこいテレビ, 2025年3月10日 14時51分
  5. 5.0 5.1 産経新聞ニュース・安元雄太 『山火事で全焼「何も残っていませんね」 避難指示解除の大船渡市三陸町綾里』 — 産経新聞, 2025年3月10日 15時39分