光で電流が流れるナノサイズの同軸ケーブル、科学技術振興機構が開発

出典:『ウィキニュース』(ベータ版)

【2006年12月16日】 科学技術振興機構 (JST) は12月15日付で、光を当てると電流が流れるようになる、数ナノメートル単位の構造を持つ同軸ケーブルの開発に成功したと発表した。低コストの太陽電池開発やナノテクノロジーの発展につながるという。12月15日発行のサイエンス誌に掲載される。

JSTによると、有機薄膜太陽電池は光によって電子を放出する分子(電子供与体)と電子を受け取る分子(電子受容体)の間で電子を受け渡すことで電力を発生させるが、軽量化、低コスト化、大面積化が期待され、現在世界中で実現に向けて研究を行っている。実際に電池を作るには、この2種類の分子をナノスケールで分離(ナノ層分離)し、接触(ヘテロ接合)させる必要がある。しかも2つの層の接触面積が大きい構造のほうが望ましい。しかし電子供与体と電子受容体は混ざりやすく、構造を形成することは困難と考えられていた。

JSTは、グラファイトの一部を切り出したような分子であるヘキサベンゾコロネン (HBC) と、トリニトロフルオレノン (TNF) という分子をエーテルの鎖で繋いだような分子 (HBC-TNF) を使い、ナノチューブの合成に成功した。HBC-TNFを、ある溶媒に溶かし、溶液に別の溶媒を少しずつ加えたところ、分子が自然に整列して直径16nm、壁の厚さ3nmの管ができあがった。この管は壁の内部にHBCが集まってグラファイトの結晶のようになり、管の内壁と外壁にTNFをラミネートした構造をしている。これによってナノ層分離とヘテロ接合を実現したという。

この管は絶縁体であるが、光を当てるとHBCの電子がTNFに移動し、それにより生まれた正孔が移動することによって電流が流れるようになる。光による電子の移動は、有機薄膜太陽電池の原理そのものである。また、このような光によるスイッチング可能な炭素ナノ材料はこれまで実現していないという。

JSTによれば、今回開発されたナノサイズ同軸ケーブルは室温で作ることが可能であることや、二つの層(HBC層とTNF層)の接触面積が大きいことから、研究開発や技術発展に役立つだろうと期待されている。

(a) (b)
(c)
  • (a)電子供与体であるヘキサベンゾコロネンの構造。グラファイトの一部を切り出したような構造と性質を持つ。
  • (b)フルオレノンの構造。これにニトロ基3つがついたものが電子受容体のトリニトロフルオレノンである。
  • (c)ナノチューブを構成するユニットの構造。

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