ネアンデルタール人のゲノム断片の解読と解析に成功

出典:『ウィキニュース』(ベータ版)
参考資料:ネアンデルタール人の頭蓋骨。フランスのラ・シャペローサンで1908年に発見されたもの(写真:Luna04
参考資料:DNA塩基配列データの一部(画像:Stemonitis

【2006年12月16日】

ドイツアメリカ合衆国の共同研究チームが、ネアンデルタール人 Homo neanderthalensisゲノムの一部を解読した。両グループの研究結果は11月16日の英ネイチャー誌と11月17日の米サイエンス誌に報告された。今回の解読は全遺伝情報を網羅したものではないが、化石標本からのゲノム解析が可能であることを示した例となる。

ネアンデルタール人 H. neanderthalensis現生人 H. sapiens と同じ Homo 属に属する。ネアンデルタール人は約3万年前ごろに絶滅した種であり、現生人とは同時期に生息地域が重なっていた。両種は進化的に非常に近い関係にあり、混血が起きていた可能性が考えられていたが、今回の報告によれば両種の交雑はなかったという。両種のゲノムの相同性は99.5%であり、今回の結果とこれまでの知見を総合して考えると、両種が分岐したのは37万年以上前であることが示された。これまでの化石研究では20万年前と考えられていたが、それよりもかなり以前であることがわかった。今後の解析により、ヒトをヒトたらしめる遺伝的な特徴が明らかにされることが期待される。

ネイチャー誌の解説によれば、化石からのゲノム解析はいくつもの困難があるという。DNAは比較的安定した物質ではあるが、非常に古いため断片化や欠損が起きている。また現存する生物のものとは異なり、サンプルの量が限られており、しかも後から混入した生物のDNAを排除しなくてはならない。今回の共同研究チームはそれぞれ技術に工夫をすることで、化石からのゲノム解読に成功した。ドイツのグループは100万塩基対、アメリカのグループは6万5,000塩基対を解読した。ヒトのゲノムは32億塩基対であり、ネアンデルタール人も同じと考えられている。

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英語版ウィキペディアパイロシーケンシング法に関する記事があります。

論文によれば、2つのグループが解読に用いたDNAは3万8,000年前、クロアチアの洞窟に住んでいた一人の男性の骨から採取された同一のもの。ドイツのグループは、パイロシーケンシング法と呼ばれる新しい手法により、サンプルに含まれるDNAを高速で解読した。そして、それらをヒトゲノムと比較することで、ネアンデルタール人のゲノム配列を特定した。この方法は一度に多くの解読が可能であるが、他生物のゲノムも読み取ってしまう。また、新しい技術であり費用が高い。アメリカのグループはメタゲノミクスという分野で用いられる方法を採用した。この方法ではまずサンプル中のDNAを増幅し、その後にヒトゲノムとの相同性により、ネアンデルタール人のゲノムのみを効率よく選び出した。こちらの方法は解読までに時間がかかる欠点がある。

ネイチャー誌の解説によれば、化石からのゲノムプロジェクトには技術と費用の面でまだ多くの課題が残されている。今回はネアンデルタール人ゲノムの一部が解読されただけであり、人類進化の謎がすぐさま解き明かされるものでもない。しかし、絶滅種のゲノムプロジェクトが可能であることを示したことは、進化研究にとって大きな進展となった。ネイチャーの論文によれば、ネアンデルタール人の全ゲノムを2年以内に解読する計画が進行しているという。ネイチャー誌では「古代ゲノミクスの誕生」というタイトルでニュース解説記事を掲載している。

出典[編集]

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